ガイド 2026年9月22日 · K2 Canada Immigration Management

カナダ訪問ビザ「40を超える基準で審査」?
— 誤解と実際

カナダの訪問ビザ(TRV)が40を超える基準で審査されるという話が広まっています。IRCCが公開した原文を直接確認すると、事実関係は異なります。新設された規定ではなく、その40余りの基準は個人の申請書を評価する項目でもありません。何が事実で、自分の申請は実際に何で決まるのかを、法令とIRCC公式資料のみに基づいて整理します。

実際に公開されたのは何か

出典はIRCCが公開した2026年次官引継ぎ資料(Deputy Minister Transition Binder)です。資料は2026年7月27日付で、訪問者に関するセクションの最終更新日は2026年9月1日です。

引継ぎ資料は新任の次官に省の現状を説明するために作成されるものです。カナダ政府は透明性方針に基づきこうした文書を公開しています。この文書が公開されたという事実そのものが、法令改正や新制度の施行を意味するわけではありません。

📌 ただし逆の読み方も正しくありません 「引継ぎ資料だから全部参考程度」という読み方も不正確です。この文書にはすでに施行中の制度も記載されています。新たに施行されるものがないという意味であって、内容が現実と無関係という意味ではありません。

「40を超える基準」の正体

原文はこう記しています。

"For over 20 years, Canada's Visa Policy Framework has guided decisions regarding which foreign nationals may travel to Canada without a visa."
(20年以上にわたり、カナダのビザ政策枠組みは、どの外国人がビザなしでカナダを旅行できるかに関する決定を導いてきました。)
"Over 40 criteria are used to assess risks (such as threats to public safety) and benefits (such as tourism) of lifting or imposing a visa requirement."
ビザ要件を解除または賦課することのリスクと便益を評価するために、40を超える基準が用いられます。)

第一に、新設された基準ではありません。原文が明示するとおり20年以上使われてきた枠組みです。

第二に、より重要な点として、これらの基準は「ビザ要件を解除・賦課するか」という国単位の判断に用いられます。個人の申請書を採点する項目ではありません。

区分内容
安全・保安公共の安全に対する脅威
旅券の信頼性・身元管理当該国の旅券の信頼性、身元確認体制
二国間の便益貿易、観光など
移民動向難民申請の傾向、無許可就労・無許可就学などの移民法違反

「40項目で自分の申請書が審査される」という読み方は原文と一致しません。

では自分の申請は何で決まるのか

個人の訪問ビザ発給要件は移民難民保護規則(IRPR)179条に定められています。条文の構造が重要です。

"An officer shall issue a temporary resident visa to a foreign national if, following an examination, it is established that the foreign national…"
(審査官は審査の結果、次の事項が立証された場合、一時居住ビザを発給しなければならない…)
条項要件
(a)規則に従い訪問者・就労者・学生クラスとして申請したこと
(b)Division 2に基づき許可された滞在期間の終了時にカナダを出国すること
(c)発給国または他国に入国できる旅券等を所持していること
(d)当該クラスの要件を満たすこと
(e)入国不許可事由に該当しないこと
(f)健康診断の対象である場合、30条2項・3項の要件を満たすこと
(g)法22.1条1項に基づく宣言の対象でないこと

条文が「shall issue(発給しなければならない)」となっている点にご注目ください。7つがすべて立証されれば、審査官に拒否する裁量はありません。審査官の判断が働くのは「拒否するか否か」ではなく「各要件が立証されたと見るか」です。

立証責任は申請人にあります。移民難民保護法(IRPA)20条1項(b)は、外国人が"must establish … that they … will leave Canada by the end of the period authorized for their stay"(許可された滞在期間の終了時にカナダを出国することを立証しなければならない)と定めています。

📌 立証の基準は「確実性」ではありません IRCCの内部指針は、申請人が"on a balance of probabilities"(蓋然性の優越)の水準で審査官を納得させればよいとしています。疑いの余地なく証明する必要はなく、「出国する可能性の方が高い」と認められれば足ります。

最も多い不許可事由 — 公式の根拠

IRCCが議会に提出した報告書はこう述べています。

"The most common reason for refusal is a negative assessment that a foreign national will indeed leave at the end of their authorized period of stay."
(最も多い不許可事由は、外国人が許可された滞在期間の終了時に実際に出国するかについての否定的評価です。)

つまり179条(b)が実務上最大の関門であることは推測ではなくIRCCが公式に述べた事実です。

ただし他の要件が形式的という意味ではありません。同じ報告書は資金不足、生体情報の未提出、犯罪歴なども不許可事由として挙げており、これらにも審査官の判断が相当程度介在します。またIRCCは1件の申請に複数の不許可事由が同時に記録されうるため、事由別の正確な統計を得ることは困難だとも述べています。事由別の公式な割合は存在しません。

永住権を申請する意思があっても不許可事由にはなりません

誤解が特に多いため独立して扱います。移民難民保護法22条2項は次のように定めます。

"An intention by a foreign national to become a permanent resident does not preclude them from becoming a temporary resident if the officer is satisfied that they will leave Canada by the end of the period authorized for their stay."
(外国人が永住者になろうとする意思を有することのみをもって一時居住者となることが排除されるものではありません。ただし、許可された滞在期間の終了時にカナダを出国すると審査官が納得する場合に限ります。)

これを二重の意思(dual intent)といいます。IRCCの内部指針はさらに明確です。

"The existence of two different intents is legitimate according to A22(2) and not, in itself, reason to refuse a temporary residence application."
(二つの意思が併存することは法22条2項により正当であり、それ自体は一時居住申請の不許可事由になりません。
⚠️ だからこそ隠してはいけません 進行中または計画中の永住権申請は隠す対象ではなく説明する対象です。隠していたことが判明すれば不許可では済まず、虚偽記載の問題に発展しうります(後述)。法が認めていることを隠したために、はるかに重い結果を招く例が実際にあります。

審査官が実際に見るもの

引継ぎ資料の原文はこう説明します。

"For many cases, a visitor's intention to travel to Canada is assessed by an officer through the evaluation of key indicators, such as travel history, family ties to their home country, and employment."
多くの場合、訪問者のカナダ渡航の意図は、渡航履歴、母国の家族とのつながり、就労状況といった主要指標の評価を通じて審査官が判断します。)

原文が「多くの場合」と留保していることをそのまま伝えます。すべての案件に機械的に適用される公式ではありません。

二重の意思に関するIRCC指針は、審査官が考慮しうる要素をより具体的に列挙しています。

いずれも「許可期間が終われば出国するか」という一つの問いに収束します。

eTAと訪問ビザ(TRV)は同じ制度ではありません

eTA訪問ビザ(TRV)
処理方式電子・自動処理
85〜90%が自動承認
意図と個人事情に対する
詳細な評価
生体情報不要必要
有効期間最長5年、または旅券の満了日
のいずれか早い方まで
最長10年、または旅券・生体情報の
満了日
のいずれか早い方まで
手数料$7申請 $100 + 生体情報 $85
家族申請には上限あり
交通手段航空便での入国・乗継のみすべての入国方法
⚠️「eTA=ビザ免除国の国民」だけではありません ビザ免除国でなくても、IRCCが指定する17か国の国民はビザの代わりにeTAを申請できます — アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、インドネシアマレーシア、メキシコ、モロッコ、パナマ、フィリピン、セントクリストファー・ネイビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、セーシェル、タイ、トリニダード・トバゴ、ウルグアイ。

ただし3つすべてを満たす必要があります:① 過去10年以内にカナダの訪問ビザを保持していた、または現在有効な米国の非移民ビザを所持 ② 通常6か月以内の一時滞在目的 ③ 航空便での入国または乗継

自動車・バス・鉄道・船舶(クルーズ含む)で入国する場合は、eTAではなく訪問ビザが必要です。最も間違いが多い点です。
📌 手数料を計算する際に $100 + $85 = $185 は生体情報を初めて提出する1名の申請を前提とした額です。生体情報は10年間有効のため、過去10年以内に提出していれば再提出は不要で申請手数料のみとなる場合があります。家族単位の申請には別途上限が適用されます(訪問ビザ:5名以上の家族 $500、生体情報:2名以上の家族 最大 $170)。手数料は変更されうるため、申請前にIRCC公式の手数料表をご確認ください。

ビザがあっても入国が保証されるわけではありません

見落とされがちな点です。ビザやeTAはカナダへ「向かうことができる」許可であって、「入国できる」保証ではありません。最終的な入国の可否と滞在可能期間は入国地の国境サービス官(BSO)が判断します。

滞在期間についても誤解があります。規則上許可される期間は6か月または審査官が定める他の期間であり、IRCCは"At the port of entry, the border services officer may allow you to stay for less or more than 6 months"(入国地において国境サービス官は6か月より短い、または長い滞在を認めることがあります)と案内しています。6か月は当然の権利ではなく既定値に近いものです。

不許可の可能性を下げるために — 原則

勝負どころは「許可期間の終了時に出国する」ことを蓋然性の優越の水準で納得させることです。原則は3つです。

① 帰国する理由を確認可能な形で示すこと
母国での就労、事業、学業、扶養家族、資産など、「カナダに留まるより帰国する方が合理的」であることを示す事実関係です。決意表明ではなく確認可能な資料である必要があります。

② 訪問目的と他の内容が整合すること
滞在期間、資金規模、宿泊計画、同行者の構成が訪問目的と矛盾しないことが必要です。個々の書類に瑕疵がなくても全体が一貫しなければ信憑性で減点されます。IRCC指針が「提出書類・情報の信憑性」を明示的な考慮要素としている点を想起してください。

③ 書類間に矛盾がないこと
申請書の記載、提出書類、過去の申請履歴が食い違えばそれ自体が不利に働きます。単純な誤りによる不一致も同様です。

⚠️ 虚偽記載は不許可とは次元が異なります 法40条1項(a)は「この法律の運用において誤りを生じさせる、または生じさせうる、関連事項に関する重要な事実を直接的または間接的に虚偽記載し、あるいは秘匿する行為」を入国不許可事由と定めます。3点にご注意ください。

① 偽造だけでなく「秘匿」も含まれます。不利な事実の記載漏れも該当しうります。
② 「間接的」な記載も含まれます。代理人・家族等が代わりに行った記載も本人に帰属しうります。
③ 実際に誤りが生じたことを要しません。「生じさせうる」で足り、欺く意図の立証も不要です。

効果は5年間の入国不許可であり、同期間は永住権の申請自体ができません(40条3項)。その5年の起算点も誤解されがちです — 虚偽記載をした日や不許可となった日ではなく、カナダ国外で判断された場合は入国不許可の最終決定日から、国内で判断された場合は退去命令が執行された日から起算されます。

弱点がある場合は隠すのではなく説明する方が安全です。何が弱点で何で補えるかは案件ごとに異なり、過去に不許可歴がある場合はその事由を正確に把握することが再申請の出発点です。

数字で見るカナダ訪問ビザ

項目数値
2025年 訪問申請受理約560万件
2026年 見通し約580万件
2027年 見通し約550万件(減少)
年間の生体情報登録約350万件
受付インフラ海外VAC 166か所 · Service Canada 82か所 · 米国 Application Service Centre 130か所
ビザ必要国の最多出身中国 · インド
eTA最多出身英国 · フランス

2点申し添えます。第一に、上記は「受理」ベースであり承認件数ではありません。第二に、2027年の減少見通しは申請件数の見通しであって承認率の見通しではありません。申請が減れば審査が緩むと読む根拠は文書にありません。

まとめ

訪問・招へい関連のサービスは家族招へい・訪問のご案内をご参照ください。

公式情報源
IRCC — Deputy Minister Transition Binder 2026: Temporary Immigration — How Visitors Come to Canada (mod. 2026-09-01)
IRPR s.179 — Issuance of temporary resident visa
IRPR s.183 — Authorized period of stay
IRPA s.20 — Obligation on entry (onus to establish)
IRPA s.22(2) — Dual intent
IRPA s.40 — Misrepresentation
IRCC PDI — Temporary residents: Dual intent (mod. 2023-04-05)
IRCC — Report to Parliament: most common TRV refusal reason (mod. 2024-10-02)
IRCC — Visitor visa: validity and length of stay (mod. 2026-05-26)
IRCC — eTA for citizens of select visa-required countries (mod. 2026-07-27)
IRCC — Official fee list

本記事は作成日(2026年9月22日)時点で公開されている法令およびIRCC公式資料に基づく一般的なご案内であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。ビザ審査は個別事情により結果が異なり、いかなる準備も発給を保証しません。手数料・要件は変更されうるため、申請前に必ずIRCCの公式情報をご確認ください。

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